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2018/10/27 妃

20181027kisaki

はじめまして。妃(きさき)といいます。
私の物心のついた頃のお話から始めましょう。
物心、と言っても幼い時分じゃありません。これは私が、女としてこの身を確信した時のお話。
はっきり覚えています。十六を迎えたすぐ後、厳格な規則の学校での毎日のいつもの道を私はひとり歩いていました。朝方、空は曇っていてわずかに肌寒く、澄んだ空気も友人たちとのお喋りも、私にはどうでもいいものに思えてしまった日常のその日、
ひとりの男が、すれ違いざま、棒みたいに動かないのです。
私は不思議に思い、また少しの心配から彼に視線を遣りました。

私のせいで、なんて自意識が過ぎるかしら

その頃より様々を突き放して見ていた少女の私は、思い違いと自身に言い聞かせ、声を掛けました。
男は全く身動きしません。もう一度呼び掛けると、彼は棒立ちのまま、目だけをこちらに向けるのです。
しばらく経って、男はやっと口を利きました。

「見ないで下さい」

私はどうしたのかと問い掛けました。いま思えば、十六の少女は残酷なものです。
私の問いに、彼は今度は顔を背けて早口で謝罪の言葉を繰り返すのです。
どうしたの と、私は再び問い掛けました。気づかない、とは残酷な事であるのだと、大人になった後の私は思い返します。けれど、彼をどうしてあげたら良いものか、私自身もうまく分からずいたのです。
ただ、ひとつ確かなのは、その彼にもう一度、もう一度だけ どうしたの と訊いたら、どうなるんだろう。

けれど、このお話は思わぬところで終わってしまったのです。彼は、

「駄目です」

と言ったきり、死んだように身動きしなくなってしまったので、仕方なく私はまた再び戻ってお話を聞いてあげようと考えながら、その場から離れてみたのです。
戻った時には、男はいなくなっていました。

つまらないな、と私はひとりでなぜだか酷く自身をどこかに閉じ込めてしまいたいような気持ちになってしまうのでした。



こうした話をここまで読んでいるなんて、あなたは少し周りの事に退屈でもしてるのかしら?

こんな話は、このあたりでは珍しくもないものだって、いま一瞬そんな事すら思ったんじゃない?


念のため、あなたのために言っておくわね。
かつては楽しみだったはずのものが、面白く思えなくなってしまうことあるでしょ?
私は、そんなあなたを私の全てによってもう一度作り直してあげましょう。

あなた と 私、もしも二人になったならその空間からあなたは逃げられないかもしれない。
悪くお思いにならないでね。そうなったら、私はきっとあなたをそこから逃がしてあげられない。私のせい、だけでは無いかもしれないの。

けれど、私と向かい合うなら、きっとあなたは行き着くでしょう。
何に?
いまはまだ教えられない。あなたの想像している、その先であることだけは確か。


私はあなたを拘束したい。あなたの中から、欲望と呼ばれる類の全てが私の前に投げ出されるまで。
私はあなたに注ぎ込みたい。肉体も精神も一緒に崩れ落ちていくその瞬間まで。

人間が堪える時の顔、意志とは裏腹にも漏らす声ってどうしてただただ興味深く、でも愛おしく思えるんでしょう。

どんなに些細な箇所も私の目はこれからきっと捕らえてしまうかもしれない。

悪くお思いにはならないでね。
私にももう、抑えが効かないみたいなの。

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